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人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2016年4月28日木曜日

日本の核武装:開発期間など

1)評論家の加藤清隆氏は以下の動画において、日本が核武装は現実的に無理だと結論している(追加補足1)。その一方で、日本の安全の危機は、1)中国の軍事的脅威が益々増大していること;2)米国が世界の警察官の地位を降りる可能性が高いことにより、大きく増大すると言っている。

核大国の中国の脅威から日本を守る方法として、核兵器を持つ第七艦隊を借り受けることや、米国との間に核兵器のシェアリングを秘密協定として結ぶこと、などを提案している。ヨーロッパでは、ドイツ、イタリア、オランダ、(トルコ)、ベルギーと米国が秘密協定を結んでおり、それを真似るというのである。 https://www.youtube.com/watch?v=QgZ4YUBeah4

しかし、核シェアリングは幻想だという指摘もネットにはある。http://obiekt.seesaa.net/article/111838149.html 実際、核兵器の管理は米国が行うのだから、核シェアリングと日米安保条約の間に有意の差があるかは疑わしい。ただし、米国への余分な支払いは相当な額になるだろうと思う。

2)これと関連してすでにブログで述べたように、米国の核不拡散政策教育センター(NPEC)に提出した「日本の戦略兵器計画と戦略:未来のシナリオと代案」という報告書が公開されている(Japanese Strategic WeaponsPrograms and Strategies)。その論文の一部を紹介する。著者はProject 2049 Institute というシンクタンクのIan Easton(補足1)である。

日本の戦略と戦略兵器計画と題して、3つの軍事オプションについて述べている。それらは、1)小さいスケールでの核開発;2)大きいスケールでの核開発;3)通常兵器の改善、である。ただし、これらのシナリオは日本が防衛の姿勢と予算においてかなりの変化の意思を示すことを条件としている。日本は長い間の政策の慣性により、僅かGDP1%の防衛予算を維持しようとする可能性もあるが、それとは無関係に日本の防衛環境は確実に、そして致命的なところまで(fatally)悪くなるだろう。理由は加藤清隆氏の動画にあるのと同じである。

更に、米国が東アジアから撤退の方向に向かったとしても、更に、何かの危機により同盟が毀損されるような状況下でも、同盟関係を維持する意思を日本が持つこと、中国や北朝鮮(以下中国等)が大きな軍事的脅威であり続けること、安全保障において合意に至らず、更に、両国の要求に屈するという選択を取らないことなどが条件として、この論文は書かれている。

3)日本にとって一つの魅力的な戦略は、最小限抑止力として、そして抑止に失敗した場合、抑制的な報復攻撃のための小さいスケールでの核開発である。そして、出来るだけ早期に米国の核の傘の中に組み込まれることが、その場合の日本政府の目標となるだろう。それは、中国等に対する抑止と日米同盟の強化の両面に寄与することを期待してなされる。

詳細に目標設定や兵器の大きさや数、考慮すべき中国などの防衛システムなどの記述がある(補足2)。その中で興味があったのは以下の記述である:日本には長距離クルーズミサイルや弾道ミサイルなどを持たないので、また最初の世代の核兵器はそれらに相応しく小型化されているとは考え難いので、差し当たり航空機による攻撃を考える筈である。現在のF-2爆撃機(米国F-16を変形国産化したバージョン)では、中国の防空網を突破できない。F-15sの大編隊(a large fleets)と囮のドローン(無人機)でも、損失は大きい。2020年には新型のF-35統合打撃戦闘機(joint strike fighter)を2飛行中隊持つだろうし、それに独自に開発しているF-3ステルス戦闘機により、状況は相当改善される。

予算についての記述もあり、28-84個の核兵器(5-20 kiloton)を保持するのに、5-10年間に40-90億ドル程度を要すると書かれている。また、新しく核兵器を持ったときの近隣諸国の受け取り方や行動に対するインパクト、特に米国と国際社会の反応を測り、核開発の情報を戦争抑止力が最大になるように、そして、政治的“blowback”が最小になるように情報を流すことになる。日本がどのようにして、戦略的目的(中国等の攻撃抑止と米国の理解)を実現するかについては、計画の情報を公開しないと予想は困難である。(補足3) その他のオプションの説明後、付録として核保持のプロセスに関する予想物語が書かれている。そこに書かれた核兵器開発のスケジュールについてだけ簡単に引用する。

2016年には核開発プログラムは萌芽的段階であるが、事態の急変で2019年の新年のセッションで日本のNSC(国家安全保障会議)は匿名の投票の結果、急ぎ核開発に着手することを決める。約5ケ月後に、11 kilotonの核爆弾を配置する。日本北部の町につくられた兵器庫にF35ステルス戦闘機に搭載するとして保管される。その20ケ月後には35の核爆弾を作り上げる。しかし、これらは核実験を経ていない。

航空自衛隊は、模擬爆弾を用いた演習を行う。そして2022年になり、第二世代の潜水艦発射型の核クルーズミサイルの開発に着手するかどうかの決断の時となる。

4)私の感想:長い論文であり我々素人には読みにくい。大事なのは、どのシナリオを取るかは、日本の政治の決断だけで決められる訳ではないことである。各種情況が影響して、歴史一般に言えるように後になっても明確な理由付けは困難だろう。

この論文は全体的にレベルが高いと判断し、これにより、実験を経ない核兵器の小規模配置でも、2年以上の年月を要すること、それもF-35 ステルス戦闘機を用いて、なんとか多少の抑止効果が期待できることが分かった。そして、ミサイルに搭載できるものは、3年後の第二世代の核兵器開発でスタートすることになるということが書かれており、非常に参考になる。最近、石原慎太郎 氏や青山繁晴氏らが、原爆など1日でできると豪語しているが、如何に日本のマスコミの表舞台が貧弱かを証明していると思う。http://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/42752874.html

米国から核兵器の設計などとノーハウが譲渡されれば、もっとも話は簡単である。共和党の政権でないと無理だろうと思う。ヒラリークリントンが大統領になった場合、あのキッシンジャーが戦略顧問になるとどこかで聞いた(モーニングサテライトか?)。その場合は、日本の防衛環境は最悪になるのではと危惧する。もちろん、素人の考えであり、全く的外れかもしれないが。

追加補足:
1)加藤氏はNPTの脱退は国連からの脱退を意味するから、日本の核保持は無理だと言っている。しかし、それは米国の政権次第だと思う。過去には、佐藤政権のとき核兵器付きでの沖縄返還が提示されたという。(片岡鉄哉著、「核武装なき改憲は日本を滅ぼす」、35頁)ただし、中国からの強い圧力はある。トランプ氏が米国大統領になれば、その話が出る可能性があると期待している。

補足:
1)Project 2049 Instituteの紹介文によると、Ian Eastonはアジアの安全保障問題の専門家。元米国海軍分析センター(Center of Naval Analyses)の中国分析家。2013年夏、日本国際問題研究所の短期フェロー(Visiting Fellow)。2005-2010に台湾在住で、アジア太平洋平和協会(the Foundation of Asia-Pacific Peace Studies)などに勤務。論文は以下のサイトに掲載されている。 http://www.npolicy.org/article_file/Easton_Japanese-Strategic-Weapons-Scenarios_draft.pdf
2)以下のような記述がある。After a period of detailed study, Japanese planers might notionallyselect eight important targets around Beijing and six in greater Shanghai. なぜ8カ所や6カ所が出てくるのかは、明確には読み取れなかった(恐らく書かれていない)。
3)この部分の原文: It is difficult to see how Japan could effectively achieve itsstrategic aims of deterring Chinese and North Korean attacks (and attractingAmerican support) if Tokyo did not make its nuclear program public to thegreatest extent military and security considerations allowed; although a highdegree of ambiguity might be desirable for political reasons.

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