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人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2017年2月4日土曜日

「米中もし戦わば」を読んで、自分の理解したこと

表題の「」内は、トランプ政権の政策顧問であるピーターナバロ氏の本の題名である。日本語翻訳版はこのタイトルで出版されたが、原題は”Crouching Tiger What China’s Militarism Means for the World”(身構えるトラ:世界にとっての中国軍国主義の意味)である。実際は、米中間で平和を維持するにはどうすれば良いかを考察している。

1)具体的には、中国が何故急速な軍備増強を行なっているか、それに対する友好国への影響、米国のとるべき戦略などについて、解説した本である。歴史的な面から見て、阿片戦争から日中戦争にかけての100年間の屈辱により中国に植えつけられた、防衛意識が背景にある。現実問題としては、中国経済を支える資源の輸送路の確保、中国の支配域とその周辺に存在する資源の確保が主な理由である。それらの確保に障害となり得る存在として、海上に存在する米国の第六艦隊(中東)や第七艦隊(アジア)、太平洋やインド洋に駐留する米軍がある。米国は仮想敵国であるという明確な判断が中国にはある。(補足1)

米国側から見て、中国は現在の覇権国である米国をアジアから追い出して、アジア地域の覇権国になるという戦略を持っていると考えられる。そして、中国の経済発展がこのまま進めば必然的に軍事大国となり、軍事予算を削減しつつある米国にとっての直接的脅威ともなり得る。もし、経済的に米国を圧倒するようになれば、世界の覇権国になり米国の深刻な脅威となる可能性もある。(補足2)

本には書かれていないが、トランプ大統領は就任演説で、孤立主義によって米国の繁栄を取り戻すと言っている。(補足3)しかし、それを徹底的に実行することはないだろう。なぜなら、軍事的には孤立主義を取るわけにはいかないからである。中国に恐怖感を抱く米国には、キューバ危機の記憶が鮮明に生きている筈だからである。つまり、米国の軍事専門家や戦略家は、中国の潜水艦がカリフォルニアの近海まで来ることを絶対に防がなければならないと考えて居る筈である。そして、中国軍に第二列島線を突破されれば、そのような危険が具体的になる。それを防ぐには、第一列島線までに中国を抑える必要がある。つまり、台湾、沖縄、日本列島は米国の防波堤である。(補足4)

トランプ大統領の演説の上記部分(補足3)は、その米国の基本戦略に触れるので、トランプ体制が続く内に、孤立主義は放棄される筈である。その第一歩が、早々と韓国と日本にマティス国防長官を派遣したことである。この本の著者を近くに置くトランプ大統領はそのことを十分承知している。

2)中国の国家としての矛盾点:
中国が軍国主義を取ることと関連して、以下の指摘をしている。それは、「中国共産党の目標は中国という国家の存続ではなく、中国共産党の存続である」(P200)こと、国民と共産党指導者とを結ぶ共産主義というイデオロギーを既に捨て去っていること、そして市場経済を取り入れて経済規模が飛躍的に大きくなる一方、大きな貧富の差が生じていること(補足5)などが、深刻な内政問題となって国家体制を不安定にしていることである。

この格差に対する不満を、内部では官憲による弾圧と外部に敵を作りナショナリズムを喚起することで体制の維持を図っている。その結果起こる米国の友好国(日本や台湾など)との摩擦を強圧的に解消するためには、強力な軍事力が必要である。また、人口14億人を静かにさせるもう一つの方法は、更に経済成長することである。

別の表現で眺めれば、中国はその都市部で先進国経済の一翼を担いながら、大多数の人口を抱える農村部を途上国型(安い労働力の供給元)としてもち、全体としては独裁国という発展途上国型の体制を維持している。独自の技術をほとんど持たない国が、都市部と共産党幹部の先進国的生活を維持するには、貧しい農村部が必要である。農村部やそこから都市に出てきた人たちの不満と外国との摩擦を“乗り切る”には、軍事と警察の強化しか答えが見つからないのだと思う。

外国に敵を必要とする一方で、外国との経済交流も必要であるという矛盾も抱えている中国は、必然的に経済交流とそれによる経済発展が平和に貢献するというこれまでの考え方が通用しない国である。

3)この本はアメリカの対中戦略に関する本であるが、第一列島線上にある日本ではより直接的に中国の脅威と対峙することになるので、その日本がその生存を賭けてとる戦略をこの本が(米国が)分析することは自然である。

日本が強力な核装備国である中国と対峙し、その平和を維持する際当然考えるのが核武装である。それは、日本が中国にとっての格好の“生贄の羊”(ナショナリズムの標的)だからである(この本では明から様にはこの指摘はされていない)。核武装は日本国の国防に大きく寄与する可能性は高いが(この点も記述されていない)、しかし、アジアの不安定化を進めて、結局米国の利益とならないと記されている。

米国の直接脅威になる前に、中国はアジア地域で覇権を確立することを考えるだろう。そのためには、中国は米国の軍隊をアジアから遠ざける戦術をとるだろう。米国の軍隊が近づけないためには、機雷などの小さいコストで大きくて高価な空母などを破壊する兵器(非対象兵器)を用いて、第二列島線から追い出す戦略をとると考えている。これは中国には負担が小さくて米国に負担の大きい、米国とその同盟国にとって厄介な戦略である。

4)孤立主義について:
経済的に余裕のない米国にとって、孤立主義の誘惑があるが、それはアジアでの米軍のプレゼンスを確かなものに保つということよりも、米国民に対して時として強い説得力を持つ。(P268)しかし、孤立主義は米国経済からアジアという世界人口の60%を占める最大の市場を奪い取る結果となるだろう。

日本は、米国がアジアから撤退するとなると、残された道の一つとして独自に核武装して中国と対立する方を選択した場合(補足7)、アジアは米軍が居る場合よりもはるかに不安定化するだろう。もう一つの選択肢として、日本(そして韓国)が中華圏となった場合、中国の勢力は非常に大きくなり、米国の脅威はさらに大きくなるだろう。何にしても、米国にとって非常に危険なことになる。上でも述べたように、トランプ大統領は孤立主義は放棄するだろう(私見です。本には直接このようには書かれていない)。

その他、台湾を中国に引き渡すことで、中国から東シナ海や南シナ海での譲歩を引き出すことが可能かについても、米国では議論されたようである。この“大取引”を行えば、アジア各国に不信感を醸成して核武装するだろうから、あまり現実的でないと結論している。

結局、力による平和以外に中国と対峙する方法はないというのが結論である。それをより有利にするためには、中国の経済発展を低く抑えることが重要である。その方法として、現在トランプ大統領が計画している、米国の法人税の大幅減税などで中国に工場を置く魅力を低減させることなどがある。トランプ大統領は経済的な政策で中国を弱める戦略をとるだろう。

以上が、私の理解したこの本の大まかな内容に若干の私見を加えたものである。“木を見て森を見ず”という言葉があるが、森を見て書いたつもりである。しかし、木の部分も当然非常に参考になる。例えば、中国本土への攻撃における戦略とか、核抑止力が本当に有効かなど、中身は具体的で詳細に書かれている。したがって、“木を見なければ、森が理解できない”のが本当のところだろう。日本人にも必読の書だと思う。

補足:
1)韓国の朴槿恵大統領を戦勝70周年記念式典に招待し、習近平の隣で閲兵した姿が鮮明に思い出される。その見せかけの親密さは、日米韓の切り崩しであり、習近平の目は米国に向けられていたことは明白である。日本の二階氏や小沢氏の大歓迎も同様であると、彼らは知るべきだと思う。
2)この点に関して、以下の指摘をしている。この経済発展の直接的契機となったのは、ビル・クリントン大統領が中国のWTO加盟を進めたことである。「米国では7万もの工場が閉鎖し、最終的に2700万人の失業者や非正規労働者を生んだ。そして、貿易赤字は年間3000億ドル以上に膨らみ、米国経済に大打撃を与えた。これほど誤った判断を下したアメリカ大統領は他にいない(筆者の要約)」と書いている。(280頁)経済発展により自由で開かれた社会になるとの期待は裏切られたのである。
3)就任演説のこの部分:We must protect ourborders from the ravages of other countries making our products, stealing ourcompanies, and destroying our jobs. Protection will lead to great prosperityand strength.私たちは、私たちの製品を作り、私たちの企業から盗み、私たちの職を破壊する外国の侵害から、この国の国境を守らなくてはならない。保護(主義)によって、繁栄と力は拡大します。
4)第一列島線を沖縄からフィリピンに引いた防衛ライン(アチソンライン)の外にある韓国には、米韓同盟に不安をもつ。第二列島線上の島々には、経済的基盤も何もないので、実質的に第一列島線が米国の大事な防衛ラインだと思う。
5)貧富の差を示す中国のジニ係数は、悪い方から世界27位の47.3%である。先進国トップはアメリカで45%(世界41位)、日本は37.9%(世界73位)でEU(30.6%; 世界117位)よりもはるかに悪い。
6)佐藤内閣の時に強引に核武装するチャンスがニクソン大統領により与えられた。それを無駄にした佐藤栄作総理は、売国奴的政治屋と言える。 http://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43129251.html
7)韓国は北朝鮮との関係もあって1960年代から核武装を考えたが、1975年に米軍が守ることを条件に、米国により核保持の計画を放棄させられた。

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