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2017年8月20日日曜日

中国の「天動説」的国際戦略に対抗する為には何が必要か:読売朝刊一面の葛西敬之氏の論文を考える

1)今朝の読売新聞一面の「地球を読む」に、中国の世界戦略についてJR東海名誉会長の葛西敬之氏の解説記事が掲載されている。「世界は今、21世紀の新しい勢力均衡に向けて最終局面に入ったかに見える」で始まるこの解説では、中国の世界戦略の概略とそれに関する中国内外の不確定な部分、それに対抗する日米の取るべき戦略などが議論されている。ただ、その妥当性については衆論の一致を見るまでにはなっていないだろう。

中国の基本的戦略は一帯一路構想である。国際的には、2014年11月に中国北京で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で習近平主席により提唱された。
https://thepage.jp/detail/20150511-00000006-wordleaf
一帯とは21世紀のシルクロード、一路とは21世紀海のシルクロードである。(上図参照)

葛西氏は、この構想を中国を中心としたユーラシア大陸及びアフリカ大陸に広がる「中華共栄圏」を建設する計画と見る。そして、その特徴を「民主主義、自由主義、法治主義、人権尊重と言った価値観を標榜することなく、巨大な経済力と軍事力により支配圏拡大を志向する点にある」と解説する。

その一帯一路と共に、中国は海洋進出、つまり太平洋とインド洋への進出、の意思を明確にしている。中国が米国に提案している太平洋を米国と二分するという構想は、日本には受け入れがたい話である。(補足1)

ただ、これらの中国の世界戦略構想について、葛西氏は国内の矛盾から目を逸らせることが主要な目的であり、国際的にトラブルの種になる可能性が大きいと見る。

中国は平等が原点の共産主義を標榜しながら、国家資本主義とも言える体制で国を運営し、大きな経済格差と大勢の失業者や無戸籍者を生じるという矛盾を抱えている。それによる国民の不満を吸収するためには、高い経済成長を実現しなければならないが、国家の計画で独力でそれを達成することは、世界のデフレ傾向や国内賃金の上昇などもあり困難である。

そこで、一帯一路構想の実行によりインフラ支援の名目で、周辺国へ失業者と在庫の排出を行う一方、戦略的に重要な港湾などをその経済支援のプロセスの中で(債務が履行できない場合などに付け込んで)、中国の支配下に置いている。一帯一路構想は新しいタイプの植民地支配の構想とも言える。(補足2)そのように、葛西氏は書いている。

更に葛西氏は、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発も、中国の世界戦略の中でその一翼を担っていると考えている。つまり、中国の太平洋進出戦略の地ならし的役割を果たしているというのである。

以上のような中国の「天動説」的国際戦略(一帯一路構想、太平洋及びインド洋への強引な進出、北朝鮮の核武装への協力と利用)等に対応するためには、日米の同盟強化(とそれによる中国への圧力)が唯一の方策であるとしている。

2)私には、葛西氏の北朝鮮問題の解釈が当たっているとは思わない。この問題は、このブログ・サイトでも何度も書いたように、朝鮮戦争の終結と講和を渋っていた米国に主な責任があると思うからである。一方、それ以外の中国の世界戦略については、上記の通りだと思う。

太平洋方面への海洋進出については、中国はどのような利益を目指しているかを慎重に考えるべきだと思う。また、現時点でその対策を考える際には、中国の覇権に対抗するという視点ではなく、日本の領土領海にたいする防衛という視点で考えるべきだと思う。その様なレベルでの米国との防衛協力でも、日本と米国、双方の太平洋諸島の防衛に役立つだろう。

具体的には、尖閣諸島周辺での侵略行為や、沖縄に対して独立を促すという政治干渉で、日本は中国から大きな脅威を受けている。それに対抗するために、日米関係の一層の強化は大切であると思う。

また、一帯一路構想が新しいタイプの植民地支配の構想だとしても、或いは、民主主義、自由主義、法治主義、人権尊重と言ったことを政治の枠組みとしていないことに奇異な感じを受けるとしても、現状では、日本は自国が直接関係する部分においてのみ、その様な考え方の受け入れを拒否すべきだと思う。つまり日本には、世界の警察官的にそれに対抗する姿勢を明確にする必要も実力もない。そして、米国との同盟関係を強化してそれに対抗する立場にも現状では無いと思う。

植民地支配的な関係で国際的なトラブルが生じたときには、国連の場でそれに対抗すべく諸外国と協力して行動すべきだと思う。南シナ海での中国の軍事的進出に対抗するために、日本ができることは限られている。また、他国の港の運営権を得て軍港化するなどの不穏な動きが見られた場合にも、日本は国際社会を巻き込んだ形での対策を考えるべきである。(補足3)

もし、現状を超える形で、アジア地域全体での中国の覇権拡大を監視及び制御する役割を日本が米国と共に果たすのなら、従来の形での日米同盟の強化だけでは、日本の外交的リスクを担保するものにはならない。

つまり、戦後の日本と米国の間の同盟関係は、敵対関係であった過去の関係の修復を十分行った後に結ばれたわけではなく、いわば基礎工事なしに掘立小屋的に構築しただけの同盟関係である。従って、日本側にはいつ何時ハシゴを外されるか分からないという不安が常に残る。

具体的には、太平洋戦争になった時の経緯(補足4)や、米国の戦中戦後を通した中国との密接な関係、戦後占領政策におけるWGIPなどによる日本政治の破壊、40年ほど前のニクソン大統領とキッシンジャー補佐官及び国務長官と中国の対日密約、更に、日米安保条約は日本の軍国化を防ぐ瓶の蓋であったという在日海兵隊司令官の証言(補足5)などを考えれば、日米同盟には確固たる基礎が欠けていることは明白である。

そのような歴史を持ちながら、日米が本当の意味で巨大な「共産党中国」に対抗できる同盟関係を現在の同盟関係の強化だけで築けるかといえば、誰もが疑問に思うだろう。

仮に、米国との関係を共産中国の世界戦略に対抗できる程度に深化させる方向に両国が舵を切るとした場合、日米同盟も新たな段階に進めることが必須だと思う。その一つとして、日本の他国による核攻撃に対する防衛に対して、米国が本格的な協力をすることなどが考えられる。それは、他の核保有国により警戒される程度のものでなければ、意味がないだろう。従来の核の傘は、全く不十分だと思う。

以上から、現状の延長上での日米同盟強化と対中国世界戦略への対抗という葛西氏の考えは、危険だと思う。

(以上は国際政治の素人によるメモです。適当に読み飛ばしてください。)

補足:
1)その構想の最初の目標が尖閣の占領だと考えられる。更に、沖縄を独立させて中華圏に抱き込むことや、小笠原諸島を支配することが次の段階である。第二列島線以西は、中国が支配するというのが最終目標である。周知の様に、小笠原支配の演習は既に済ませている。
2)日本の大東亜共栄圏構想を思い出す。
3)スリランカの港の運営権を99年間中国企業が借りる契約を結ぶようである。そこが軍港になる可能性もある。 https://mainichi.jp/articles/20170208/k00/00m/030/129000c
4)最近のフーバー元大統領の著書「裏切られた自由」などに書かれていると言われる日本に対する戦争誘導戦略(渡辺惣樹著、「誰が第二次大戦を起こしたのか」に記載)、マッカーサー司令官の帰国後の米国議会での証言など。
5)1990年3月27日付ワシントンポスト紙に日米関係の歴史に残る発言が載っている。「瓶のふた」発言である。在日米海兵隊ヘンリー・C・スタックポール司令官(少将)による次のような発言である。「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。だれも日本の再軍備を望んでいない。だからわれわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶のふたなのだ」。http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0302S_Z00C12A2000000/

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